旅行の情報収集は「検索する」から「相談する」へ
これまで旅行の宿探しといえば、予約サイトで「エリア」「日付」「人数」を入力し、表示された一覧を価格や評価で並べ替えて比べる、という流れが一般的でした。旅行者が自分で条件を絞り込み、候補を比べる「検索」が中心だったといえます。
この流れに、変化が見え始めています。JTB総合研究所は「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2025)」のまとめで、「情報収集は『検索する』から『相談する』時代へ」という見出しを掲げました。旅行の情報収集が、生成AIに「相談する」行動へ大きくシフトしている、という指摘です。
そして、この「相談する」行動は、ChatGPTのような汎用のAIサービスの中だけで起きているわけではありません。大手旅行予約サイトである楽天トラベルの中にも、AIに宿を相談できる機能がすでに組み込まれています。
楽天トラベルのAIエージェント「Rakuten AI」でできること
楽天グループの公式発表をもとに、楽天トラベルのAI機能の経緯を整理します。
2025年9月:「楽天トラベルAIホテル探索」の提供開始
楽天グループは2025年9月22日、楽天トラベルのAIエージェント「楽天トラベルAIホテル探索」の提供開始を発表しました。発表によると、楽天トラベルのスマートフォン用ページから無料で利用でき、宿泊したい場所・地域、期間、人数、構成、予算、宿タイプ、設備、サービスといった条件を会話形式で入力すると、条件に合う宿泊施設を最大30軒提案します。提案結果は、写真・価格・クチコミ評価・「AIおすすめポイント」・地図上の位置などを一覧で比較できるとされています。
既存の検索項目にない要望や、抽象的な希望も対話を通じて汲み取る、というのが楽天グループの説明です。EMOVIAによる例を挙げると、「子ども連れで、静かに過ごせる温泉宿」のように、これまでの検索条件のチェックボックスでは表しにくい希望を、そのまま文章で伝えられるイメージです。
2026年4月:「Rakuten AI」に改称し、予約まで完結
2026年4月30日には、このAIエージェントの名称を「Rakuten AI」に改称し、予約機能を追加したと発表されました。発表によると、提供環境は楽天トラベルのスマートフォン向けウェブページとアプリです。
これにより、希望を自然な文章で伝えて、提案された最大30軒の候補を一覧や地図で比べ、気に入ったプランを選んで予約まで完了する、という一連の流れをAIとの対話の中で進められるようになりました。楽天IDでログインすれば、獲得予定のポイントや割引を反映した料金を確認でき、予約時に氏名・連絡先・カード情報を入力し直す必要もないとされています。過去の予約履歴をもとに「いつもの宿泊施設」を提案してリピート予約を手助けする機能もあります。
利用状況について、楽天グループは利用者数や予約数が増加傾向にあり、正式な提供開始以降、予約数が継続的に伸びていると説明しています。ただし、具体的な数値は公表されていません。今後は、閲覧履歴や予約履歴にもとづく、よりパーソナライズされた提案を進める予定とされています。
楽天トラベルのAIは、何をもとに提案しているのか
宿泊施設の立場で最も気になるのは、「AIは何を見て、どの施設を提案しているのか」という点ではないでしょうか。
楽天グループの発表で、提案に反映する情報として挙げられているのは次のとおりです。
- 2025年9月の発表: 楽天トラベルの宿泊施設に寄せられたクチコミ、各宿泊施設が提供する宿泊プラン、ユーザーの予約トレンドなどの分析データ。これに加えて、ウェブの検索結果も提案に反映できるとされています。
- 2026年4月の発表: クチコミ、宿泊施設情報、予約データに加えて、ウェブの検索結果も提案に反映できるとされています。
また、2025年11月26日には、楽天トラベルの宿泊施設ページにあるクチコミ・評価機能「お客さまの声」のリニューアルが発表されました。評価項目に「清潔さ」を追加し、「食事」を「朝食」と「夕食」に分けるといった内容です。この発表の中で楽天グループは、クチコミ数と情報量を拡充し、AIエージェントとの連携も強化することで、一人ひとりにより合った宿の提案を目指す、という方針を示しています。AIによるクチコミの頻出キーワード表示や要約は、2026年初旬から各宿泊施設のページへ順次反映する予定と発表されていました(実際の反映状況は、この記事では確認できていません)。
少なくとも楽天グループの方針として、クチコミや施設の情報がAIの提案の材料として位置づけられていることは、公式発表から読み取れます。
公開されていること・公開されていないこと
ここは、断定せずに整理すべき大切な部分です。
公式発表で確認できること:
- AIが提案に反映する情報の「種類」(クチコミ、宿泊施設情報、宿泊プラン、予約データ、ウェブの検索結果など)
- 提案件数の上限(最大30軒)と、提供環境(スマートフォン向けウェブページとアプリ)
公式発表では確認できなかったこと:
- それぞれの情報をどう重み付けし、どの施設を何番目に表示するのかという基準
- 「AIおすすめポイント」が、どの情報をもとに作られているのか
- 「ウェブの検索結果」が、どの検索エンジンの、どのサイトの情報を対象にしているのか(施設の公式サイトやGoogleビジネスプロフィールが含まれるかどうかを含む)
- AIの仕組みに使われている技術の詳細
このため、「クチコミが多い施設ほどAIに推薦される」「公式サイトを整えれば楽天トラベルのAIに選ばれる」といった因果関係は、この記事では主張しません。確認できるのは、AIが参照する情報の種類として公式に挙げられたものの多くが、事業者自身が正確さや充実度に関われる情報である、というところまでです。
旅行者はどれくらいAIに相談しているのか
では、旅行者は実際にどの程度AIを使っているのでしょうか。調査によって対象や条件が異なるため、数字は前提とあわせて見る必要があります。
国内:情報検索の方法として生成AIを挙げた人が増加
JTB総合研究所の「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2025)」(2025年11月実施)では、首都圏・名古屋圏・大阪圏に住む18〜69歳で、私用でスマートフォンを使い、過去1年以内に国内旅行(日帰りを含む)をした1,030名を対象に調べています。この調査では、情報検索の方法として生成AIを挙げた割合が、前年の9.7%から28.8%へ約20ポイント増えたと報告されています。三大都市圏に住む人が対象である点には注意が必要ですが、1年で大きく伸びていることがわかります。
同じくJTB総合研究所の「生成AIの利用と旅行についての調査」(2025年7月実施)では、生成AIを週1回以上利用する人のうち77.8%が、旅行に関連して生成AIを使った経験があると報告されています。同調査の本調査(ウェブアンケート)は、過去1年以内に泊りがけの観光旅行をした経験があり、生成AIを週に数回以上利用している人432名を対象としています。77.8%は「生成AIを週1回以上利用する人」を母数とした数値で、日本の旅行者全体の割合ではありません。同調査では、今後使いたい用途として旅行の行程作成やルート提案、交通手段の検索・予約、旅行先のグルメ情報検索が上位に挙がる一方、利用上の不安として「正確な情報でない場合がある」が最も多く挙げられています。
海外:予約まではまだ慎重という調査も
一方で、AIへの依存がまだ限定的であることを示す調査もあります。Expedia Groupの委託でYouGovが米国・英国・インドの成人5,700名超を対象に実施した調査(2026年3月実施)では、53%がAIに旅行の選択肢を提案させることに抵抗がなく、40%が旅程づくりにAIを使っていると回答しました。しかし、旅行計画でAIチャットボットやエージェントに頼る人は米英で8%にとどまっています(同じ発表では、比較として検索エンジンが59%、旅行予約サイトが49%と示されています)。また68%は、AIチャットボットやエージェントよりも、信頼できる旅行ブランドで予約したいと回答しています。なお、この調査に日本は含まれておらず、旅行会社自身が委託した調査である点にも留意が必要です。
海外の旅行予約サイトでは、2023年の時点で、ExpediaがChatGPTを使ったアプリ内の旅行相談機能を、Booking.comが「AI Trip Planner」を、いずれも英語のベータ版として発表していました。これらは当時の海外向けの発表であり、現在日本で同じように使えることを示すものではありませんが、旅行予約サイトの中にAIの相談機能を組み込む動きが数年前から続いていることがわかります。
数字から読み取れる温度感
これらを合わせると、「すでに多くの旅行者がAIで宿を決めている」とまでは言えません。一方で、AIが旅行の情報収集の入口の一つとして広がり始め、楽天トラベルのように身近な予約サイトの中でも、AIに相談してそのまま予約できる環境が整いつつある、というのが現在の状況だとEMOVIAは考えています。
宿泊・観光事業者にとって何が変わるのか
従来の予約サイトの検索では、旅行者が自分で条件を絞り込み、一覧から施設を比べていました。AIに相談する場合、旅行者の手元に届くのは、AIが条件と情報を照らし合わせて絞り込んだ候補と、その説明です。
この変化を踏まえると、次のような点が以前より重要になる可能性があると考えています。
- 文章で書かれた情報の具体性: 「子ども連れで静かに過ごしたい」「駅から歩ける」「部屋食ができる」のような、文章で伝えられる希望に対して、施設情報やプランの説明が具体的に書かれているかどうか。
- 情報どうしの一貫性: 予約サイトの施設情報・プランの説明・クチコミ・公式サイトの記載が食い違っていると、AIだけでなく旅行者自身も判断に迷います。
- クチコミとその返信の内容: クチコミは件数だけでなく、実際の宿泊体験としてどんな点が評価されているか、施設側がどう応えているかという中身も、旅行者が施設を理解する手がかりになります。
これらは、AIのためだけの特別な対策ではありません。旅行者に施設を正しく理解してもらうための基本であり、相談相手がAIに変わっても、その重要性は変わらないと考えられます。
なお、楽天グループが提案に反映するとしている「ウェブの検索結果」が具体的に何を対象にしているかは公開されていません。そのため、公式サイトやGoogleビジネスプロフィールの情報が楽天トラベルのAIに直接使われているとは言えません。ただ、ChatGPTやGoogleのAI検索など、予約サイト以外のAIに旅行者が相談する場面も考えると、予約サイトの中の情報だけでなく、Web全体で自社の情報を正確に保っておくことは、AI検索対策の範囲に含めて考えておくべきだと考えています。生成AIが公式サイト以外のどんな情報源を参照する傾向があるかは、「AIに引用されやすい企業情報とは?公式サイト・第三者メディア・口コミの役割」で整理しています。
事業者がいま確認したいこと
ここまでの内容を踏まえて、宿泊施設・観光事業者がいま確認しておきたい項目を整理します。いずれも「これをすればAIに選ばれる」という効果を保証するものではなく、旅行者とAIの両方に施設を正しく理解してもらうための土台の確認です。
楽天トラベルなど予約サイトの掲載情報
- 施設の基本情報(住所・アクセス・チェックイン/チェックアウト時刻・駐車場など)が、現在の実態と一致しているか
- 設備・サービス(温泉、部屋食、バリアフリー対応、ペット可否、送迎の有無など)の登録内容が、実態どおりになっているか
- 宿泊プランの説明が、「おすすめ」「人気」といった抽象的な言葉だけで終わらず、誰にどんな過ごし方ができるのかを具体的に書いているか
- 終了したプランや古い写真、すでに提供していないサービスの記載が残っていないか
- クチコミに対して、内容に沿った返信を継続できているか(指摘への対応や、実際に提供しているサービスを正確に伝える返信になっているか)
公式サイト
- 施設名・住所・電話番号・営業情報が、予約サイトの掲載内容と一致しているか
- 客室・料理・設備・周辺の観光情報など、旅行者が相談しそうな内容について、具体的な説明があるか
- 料金や営業期間など、変わりやすい情報が古いまま残っていないか
Googleビジネスプロフィール
- 名称・住所・電話番号・営業時間・定休日が、公式サイトや予約サイトの情報と一致しているか
- カテゴリが、現在の施設・事業の実態と合っているか
- 写真が現在の施設の様子を表しているか、口コミへの返信を続けられているか
Googleビジネスプロフィールで確認したい項目や、情報の一貫性の考え方は、「Googleマップ・MEOはAI検索に関係する?地域企業が整えるべき情報を解説」で詳しく整理しています。
クチコミとの向き合い方
クチコミについては、件数を増やすこと自体を目的にした依頼や見返りの提供は避けるべきだと考えています。実際の宿泊体験と食い違う情報は、旅行者の判断を誤らせることにもなるためです。実際の体験に基づくクチコミが自然に集まり、それに施設として丁寧に応えている状態を目指すことが、AIの時代でも変わらない基本だと考えています。
北陸の地域事業者にとっての意味
北陸のように、地域の外から観光で訪れる人を迎える土地では、旅行者は現地の事情をよく知らないまま、限られた情報で宿や店を選ぶことが少なくありません。そうした旅行者が、AIに「金沢で、子ども連れでも気兼ねなく過ごせる宿は?」と相談するような場面は、今後増えていく可能性があります。
そのとき、AIや旅行者が参照できる情報が古かったり、場所によって内容が食い違っていたりすれば、施設の実際の魅力は正しく伝わりにくくなります。反対に、施設の特徴が具体的に、矛盾なく書かれていれば、旅行者の相談に合う施設として理解してもらえる土台になると考えています。
AI検索対策(AIO)という言葉の意味や、SEOとの関係については、「AIO・LLMO・GEOとは?2026年のAI検索対策を地域企業向けに整理」で整理しています。
まとめ:この記事で断定しないこと
最後に、この記事で明確にしていない点を改めて整理します。
- 楽天トラベルのAIが、どの要因で宿泊施設を選び、どの順番で表示しているかは公開されていないため、「○○をすればAIに選ばれる」とは断定していません。
- 楽天グループが挙げる「ウェブの検索結果」に、施設の公式サイトやGoogleビジネスプロフィールが含まれるかどうかは確認できていません。
- 楽天トラベルのAIの利用者数・予約数は、増加傾向にあると説明されていますが、具体的な数値は公表されていません。
- 調査の数値は、対象(地域・生成AIの利用頻度・国)が限られており、日本の旅行者全体の行動を示すものではありません。
確認できているのは、大手旅行予約サイトの中で、AIに宿を相談して予約まで進める環境がすでに提供されていること、そしてそのAIが参照する情報の種類として、クチコミや施設情報など事業者が関われる情報が公式に挙げられている、というところまでです。だからこそ、AIに相談する旅行者が増えていく前に、自社の情報が正確で一貫しているかを一度確認しておく価値は大きいと、EMOVIAは考えています。
自社の情報が、Google検索・Googleマップ・公式Web・AI検索の中で現在どう見えているかは、AIO無料診断で横断的に確認できます。